簡易聴力検査器

 みなさんは、オジオメータという器械を知っていますか?健康診断や耳鼻科を受診した時に、ヘッドフォンを付けて音が聞こえたらスイッチを押すという検査器械です。

 大がかりな検査機器は高く、健康診断に特化した機器は探した限り見つかりませんでした。

 以前に、点滅回路を設計した際に、NE555を使うと決まった周波数が作り出せることに気がつきましたので、応用編として、簡易オージオメータの自作にチャレンジしてみようと思います。

1.市販のオージオメータと健康診断について

 オージオメータは、昭和57年8月14日改正後の日本工業規格によって規格が定められており、定期的に校正を受けることとなっています。ある会社のオージオメータは、測定周波数が250Hz, 500Hz, 1,000Hz, 2,000Hz, 3,000Hz, 4,000Hz, 6,000Hz の7パターンで、聴力レベルは-10~70dBを5dB間隔で測定出来るようになっていました。 

 健康診断では、検査場所として、正常聴力者が1,000Hz, 25dBの音を明瞭に聞きうる場所と定められており、静かな場所であることは言うまでもありません。平成元年12月21日の文部科学省の一般定期健康診断の手引きによると、片耳づつ、1,000Hz, 30dBまたは4,000Hz, 40dBの音が聞こえるか(学校の健診では、1.000Hz, 30dBまたは4,000Hz, 25dB)を検査することとなっています。オージオメータが使えない場合は音叉での検査でも良いとなっています。マニュアルによって検査する音量がマチマチで、どのdBに合わせるかは難しいところです。

 以上を踏まえて、今回設計する機器は、1,000Hz・4,000Hz・6000Hzの40dBと25dBを切り替えて出力出来ることを目指そうと思います(あくまで、音叉法の補助的な役割としての器械であって、JIS規格の精度を持った器械の代替品ではありません)。


2.発振回路の設計

 IC NE555は、抵抗やコンデンサの配置により、ワンショットタイマー(単安定動作),発信器(無安定動作),分周回路,PWM回路,パルス位置変調回路などを作ることが出来ます。データーシートには50%デューティー回路も紹介されていますが、少し用途が違う仕様ですので、今回は無安定動作回路を利用することにします。

 参考までに、デューティー比とは、電圧がhighの時間(TH)とlowの時間(TL)の比率のことです。

秋月電子通商さまのHPより抜粋

 この回路では、

TH = 0.693 × C × (Ra+Rb)、TL = 0.693 × C × Rb

デューティー比 = TH / (TH+TL)×100

周波数 f = 1.44 / (( Ra+Rb+Rb) ×C)

で計算されますので、入手可能な抵抗やコンデンサーで1,000Hz、4,000Hz、6000Hzの発振を目指すと共に、Ra<<Rbとしてデューティー比を50%に近づけていきます。民生品のため、計算値と実測値が若干誤差が生じることも考慮し、最終的に可変抵抗で微調整を加えることにして、Ra(Ω), Rb(Ω), C(μF) を以下の3パターンに設定しました。

Ra=2000, Rb=18000, C=0.033 → f=1148.32, D=52.6

Ra=3000, Rb=75000, C=0.0022 (2200pF) → f=4278.07, D=50.98

Ra=9100, Rb=68000, C=0.0015 (1500pF) → f=6616.12, D=53.13

Rbに5kΩまたは20kΩの可変抵抗を直列に繋ぐとDを50に近づけつつfを下げて微調整が可能かなと考えています。


3.機器の試作・圧電ブザー編

 抵抗とコンデンサの数値が計算出来たので、圧電ブザーを使った試作を行いました。まずは、行きつけの(?)大阪日本橋のシリコンハウス共立さんに出かけて、部品の調達です。

 ケースから小さい部品まで沢山のパーツを買ってきました。総額4000円くらいです。抵抗とコンデンサは、色や刻印で種別が分かるのですが、老眼にはきつい作業になるため、あらかじめ小さい袋に規格を書いておき、店員さんに詰めていただきました(通販サイトだと個別包装していただけるので楽かと思います)。部品の間違いも直していただきました(店員さんより、忙しい時間には個別仕分けは遠慮くださいと言われましたが、ほんとに感謝しています)。ついでに周波数やデューティー比も測定出来るテスターも買ってきました(約3000円)。

 まずは1000Hzの発振回路の部分をユニバーサル基盤に空中配線で半田付けして圧電ブザーを付けてみると、それらしい音が、か細く鳴っています。周波数が高い分には、抵抗値の追加で調整が可能なので、このまま作ってしまおうと思います。


4.基盤の作成

 空中配線で小さいながらも音が聞こえたのに気を良くして、ここで全体の回路図を書いてみました。周波数は、1000Hz、4000Hz、6000Hzの3パターンで、スピーカ出力用のアンプ回路も入れました。ユニバーサル基板だと、かなりの大きさになってしまい、作成にも時間がかかることになりそうです。半田付けを失敗したときのリスクも考え、unicraftさんに基盤の作成を依頼しました。

 詳細は、基盤の作成ページをご覧ください。


5.周波数の計測と調整

 上述の抵抗Rbに可変抵抗を使ったおかげで周波数の調整は簡単でした。写真は1000Hzの調整前後の画面です。

 無調整の場合、1000Hzは1150Hz(理論値1148Hz)、4000Hzは4227Hz(理論値4278Hz)、6000Hzは6510Hz(理論値6616Hz)でした。写真はありませんが、デューティー比は51%前後とまずまずの数値でした。


6.本体の配線

 周波数の調整が出来たところで、全体の配線をしました。音量がよく分からないので、とりあえずやっつけ仕事で配線してみると・・・アンプを通すと音が大きすぎて割れてしまいました。NE555の出力を直接ヘッドホンに通しても大きな音が聞こえています。

 実はここで、音量調整に抵抗を直結してコントロールしようとして四苦八苦していしまいました。結論からいうと、交流の場合、抵抗を並列に繋ぎ電流を逃がす感じで調整すると良かったのですが。

 そういえば、大昔にそんなことを技術の時間(年代が古くてごめんなさい)に習ったような気もしますが、すっかり忘れていました。

 そんなこんなで3日ほどあがきましたが、出来上がったのがこちら。

 普通のオージオメトリは被験者にプッシュスイッチを持ってもらいますが、今回は無線スイッチを使ってみました。これで、検査時の配線を、ヘッドホンだけの1本に減らすことが出来ました。


7.中間まとめ

 診療に使うためには、規定の検定をパスする必要があるので、この器械(1号機)は無償の簡易検査として使用しようと思っています。ただ、音が出る瞬間に切り替え音が入ってしまうのと、音量が絞り切れなかったので、改良の余地が残りました。

 聴力検査のマニュアルが複数存在すること、基盤設計に発注、ICや交流の制御に至るまで、良い勉強になりました。

 2号機では、周波数や音量の調整をパネル化し、さらに実用に耐えられるマシンを目指そうと思います。


(2018.9.21記)


記事の予定

  • 2号機の設計と製作
  • 最終の回路図と抵抗値一覧